2019/06/09
イベント
2019年度盛岡大学特別公開講座
令和元年6月9日(日)に行われた2019年度盛岡大学特別公開講座「これからの小学校英語~未来への英語教育のすすめ~」でロバート・ステイリン先生に頂いた質問票への回答です。
Q ロバート・スティリン先生に質問です。
「間違ってもいいんだ」とおっしゃっていましたが、ご自身が第二言語を学んだ時の先生の様子はどのようでしたか。また、鳥飼先生の「学習者はまちがっても許すべきだが、教師の間違いは許されない」という考えはどう思いますか。
A ご質問ありがとうございます。
私が第二言語(スペイン語)を学んだ中学・高校の教師は、語彙や文法に重点を置きつつも同時に「言葉の関連性」ということを重視していました。つまり、自分が今学習していることが、自分の持っている知識や経験、日常生活の場面にどう関連するのかということです。また、「特定の場や状況に適した言語表現」を学ぶだけではなく、どのようにしたら別の場面でも使えるかを関連づけて学びました。そのような学習により、多くの言葉は様々な場面で、その時々により異なるやり方で応用できるということを理解しました。
また、相手に意思を伝えるための「適した表現やフレーズ」を学ぶだけではなく、場面や状況に応じたバリエーションの異なる表現も学習します。先日の発表でお話しさせていただきましたが、言語表現には「唯一の正しい言語表現」はなく、言葉はより流動的で様々な要因によって常に変化するものだと考えます。
このように、私たちは時に間違いながら言葉を学んでいるのだということを考えた時、忘れないでいただきたいことがあります。
ひとつは、母語と異なる言語を使ったコミュニケーションにチャレンジしていること、それだけで相手にとって好意的に受け止められているということです。外国人が間違いながらも拙い日本語で日本人とコミュニケーションをとろうとする姿に多くの日本人は好感を持つはずです。それは異文化、他言語においても同じことが言えます。
もうひとつは、言語の習得過程において間違うことは自然なことで、それも学びであるということです。たとえ文法や表現形式に多少誤りがあっても、伝えようとするメッセージが相手に伝わること、そして相手のメッセージを理解できることが最も大切なことではないでしょうか。
私が第二言語の指導を受けた教師も、もちろん基本的な言語事項は正しく指導したうえで、それに基づいて「メッセージの伝達」をより重視した指導をしていました。
現在、私が大学でおこなう講義も「メッセージの伝達」をまず第一に、それから細かな文法事項の確認をします。さらに、イギリス英語がベースになった教科書を使用することで、学生がアメリカ英語とイギリス英語を比較・理解し、幅広い視点で英語を学ぶことができるよう努めています。
鳥飼先生のおっしゃった「学習者の間違いは許されるべきだが、教師は英語のプロフェッショナルとして正しい英語を教える責任がある」というお考えについては、もちろんおっしゃる通りであると思います。
ただ「正しい英語」をアメリカ英語・イギリス英語を標準として定義されていますが、今や世界中の多くの人が第二言語として英語を習得し、英米以外の多くの国で公用語として英語が使われています。様々な国籍の人が英語を使ってコミュニケーションをしているいま、アメリカ・イギリス英語でない英語の話者がアメリカ・イギリス英語話者の数を圧倒的に超えるとき、「正しい英語」とは何を指すのでしょうか。母語話者でさえ、自分とは違う英語の使い方に出会う時、それがたとえ文法的に間違っていなくても、誤りだと感じることは多くあります。それぞれの国、地方、地域によって少しずつ異なる英語という言語を学ぶにあたって、小中高と続く英語学習の入り口の小学校英語だからこそ、間違いをおそれずに、まずは「メッセージの伝達」を重視したいと私が考える理由はここにあります。
教師が教科書で取り扱う語彙表現や文法事項のレベルの英語力を身につけることは当然ですが、それ以上のレベルの英語に関しては教師も間違うことがあり、それを学習者が気づき指摘することもあるかもしれません。間違うことを恐れ避けるのではなく、間違いを認めて訂正しながら学習者と学んでいくべきではないかと思います。そして、他教科とは異なり、様々な使われ方をする言語の学習であるからこそ、誰しも間違うことがあり、それは自然なことなのだと学習者に示すことは大事であると考えます。
また、全ての教科指導をおこなう小学校教員に対して「正しい英語・完璧な英語」のスキルを求めるのは現実的ではないと思います。小学校教員が英語スキルの習得に費やすことのできる十分な時間の確保、効果的で効率的な研修システムの構築が求められていますが、教員のみなさんの不安を解消できるものには未だなっていないのが現実です。
それゆえ、小学校英語の先にある正しい文法や正しい綴りの学習の前段階で、小学校教員のみなさんに大事にしていただきたいのは、子どもたちに英語を使ったコミュニケーションの楽しさを伝えることです。その中で、カタカナ英語ではなく正しい発音に少しでも近づくように努力していただけたらと思います。
鳥飼先生のお言葉にあるように、教師の英語力は学習者より高くあるべきですが、どの程度であれば充分かという点においては、非常に主観的なものと考えています。
最後に、小学校における英語教育、とりわけコミュニケーション(Speaking/Listening)に関しての私の考えを述べさせていただきましたが、日本とは異なる教育方法・アプローチなど私の経験にもとづいた視点であること、また、日本の中学・高校・大学と続く入試システムによって、小学校英語教育に求められるものもまた変わってくるであろうことも付記いたします。
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