盛岡大学・盛岡大学短期大学部

2026/03/06

社会文化学科

研究成果(社会文化学科 鈴木先生)

ホームページにおいて、研究成果は通常、業績一覧として簡潔に示されることが多いかと思います。今回はあえて、その背後にある思考の過程や、研究・教育に向かう姿勢も含めて、エッセーのようなかたちでご報告させていただきます。

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 私の研究には、二つの軸がある。ひとつはフランス語圏文学、とりわけフランツ・ファノンを中心とするポストコロニアル思想の研究である。人種差別や植民地主義の問題は、遠い過去の歴史ではなく、いまなお私たちの社会をかたちづくる問いである。その思考の臨界を見つめ直す試みは、査読を経て『比較文化研究』(盛岡大学社会文化学会、2025年3月)および『Les lettres françaises』(上智大学フランス語フランス文学会、2025年8月)に掲載された。これらの論文の刊行は、盛岡大学の学術助成によって可能となったものである。
 もうひとつの軸は、17世紀フランスの思想家ブレーズ・パスカルの研究である。上廣倫理財団や日本学術振興会の研究助成を受けながら、着実に研究を進めてきた。2025年5月には、パリに拠点を置く老舗学術出版社Classiques Garnierから共著を刊行した。同社は1896年創業以来、フランス文学・古典文学研究において世界的評価を受ける出版社であり、とりわけ「Classiques Jaunes」シリーズは専門家による精緻な校訂と注釈で知られる。2025年12月、出張でソルボンヌ大学を訪れた折、そのすぐ近くにあるガルニエ社の書棚に、自らの関わった一冊が並んでいるのを目にした。黄色一色の背表紙の列のなかに、確かにそれはあった。フランス語で受け取った知を、日本で育て、再びフランス語で世界へ送り返す。知の輸入と輸出の往還のなかで、先人の研究を批判的に継承しながら、半歩でも前へ進める――その営みの具体的な手触りを実感した瞬間であった。

 2026年2月には、法政大学出版局より『パスカル読本』が刊行された。第一線で活躍される研究者の方々と本を執筆する機会を得たことは光栄であると同時に、自身の未熟さを痛感する経験でもあった。論文を書き終えて強く感じたのは、偉大な先達とのあいだに横たわる無限とも言える距離の大きさである。しかしその距離こそが、研究を続ける理由でもある。
 本書刊行に先立ち、盛岡大学で研究会を企画した。編者の先生方を本学にお迎えし、議論を交わした。研究会の合間には、社会文化学科の吉田先生も加わって、盛岡の街を歩き、さんさ踊りを見学した。ちょうど盛岡大学が優勝を決めた瞬間を、編者の先生たちと見届け、喜びを分かち合ったことは記憶に新しい。学問は孤独な営みであると同時に、人と人との出会いのなかで育つものである。あの夏の日の議論から約二年を経て結実したのが本書である。私はパスカルの文体論を寄稿している。
 

 法政大学出版局ウェブサイト記載の本書の内容紹介:「近代科学の黎明期、天才科学者として出発したパスカルはイエスとの歓喜の交わりを経たのち、人々を「無限の空間の永遠の沈黙」から真なる神との出会いへと導くべく断章(『パンセ』)を書き続けた。生誕400年を迎えてなお読者を魅了してやまない不世出の思索者の全貌を、科学史、文学、霊性、宗教史、哲学分野の研究者29名が総力をあげて読解する。パスカル理解が本格的に深まる決定版の一冊。」(詳細は上記リンクを参照) 
 研究成果の発信は続く。哲学者三木清がパスカルをいかに読んだのかを論じた論文が、まもなく新ソルボンヌ大学より刊行予定の『パスカル生誕400周年記念論文集』に収録される。また、2024年9月に大阪大学で行われたアンヌ・レジャン=シュジニ氏(新ソルボンヌ大学教授)の研究発表に基づく論文の翻訳を担当し、その成果が機関紙『Gallia』(大阪大学フランス語フランス文学会)に掲載される予定である。
 ところで研究は読むことだけでなく、媒介し、橋渡しすることでもある。2025年12月13日には、東北大学片平キャンパスで開かれた「文字・声・リズム──フランス文学の臨界点で──」(東北大学大学院国際文化研究科長特別裁量経費)に、17世紀フランス文学の専門家・指定登壇者として参加・発表した。2026年3月23日には、台湾を代表する名門私立大学、輔仁大学フランス学科(天主教輔仁大學法國語文學系)において、遠藤周作『沈黙』とパスカル『パンセ』をめぐる90分の特別講義を行う。2026年5月下旬には、早稲田大学で開催される『パスカル読本』出版記念シンポジウムにパネリストとして登壇予定である。
 研究とは、論文数を積み重ねることではなく、問いを深め続ける姿勢である。そして大学とは、その問いを共有する場所である。盛岡大学での教育においても、研究で得られた知見を惜しみなく還元し、ときに現代社会が抱える諸問題とも関連付けながら、学生とともに考える場を育てていきたい。世界と往還する知の営みを、ここから発信する。

                                                    社会文化学科
                                                     鈴木真太朗