盛岡大学・盛岡大学短期大学部

イタリア学校調査の報告 Vol.2 ―保護者を巻き込む多文化学校の挑戦

今回も北イタリアのボローニャで学校や地域の教育拠点を尋ね、お話を伺ったり実践を観察したりしました。その一部を紹介します。

今回ご紹介するのは、多文化の子どもたちが集うA小学校で、さまざまな国や地域からやってきた保護者を学校の教育運営活動に参加させようという取り組みです。2012年から2014年に町ぐるみで参加したEU資金の国際プロジェクトがきっかけとなりました。国際プロジェクトのタイトルはEMPAC[Empowering Parents and Children]。子どもはもとより保護者を学校に参加させエンパワメントする(=励まし力づける)ことで、子どもたちの学業達成につなげることが目的でした。出身国が違えば保護者の学校に対する考えかたも変わります。学校の重要性が共有されていなかったり、仕事や家計の事情で子どもを学校にやることが負担となっていたり、言語や文化の違いから子どもの宿題や学習の面倒もみられない家庭が多いとされ、そうしたなかでは子どもの学校でのパフォーマンスも落ち込みがちであることが問題視されてきたのです。イーリング・ロンドン自治区(イングランド)がコーディネート役で、イタリアからボローニャ市、チェコ共和国からウスティ州が参加した国際プロジェクトでした。

ボローニャ市では、ボローニャ大学、市のRi.E.Sco(リエスコ)センター[Centro Servizi Consulenza Risorse Educative e Scolastiche](教育と学校のリソース及び指導助言センター)、CD・LEIセンター[Centro di Documentazione e Laboratorio per una Educazione Interculturale](インターカルチュラル教育のためのドキュメンテーションとラボラトリー)、市の教育専門家たち、いくつかの幼児・小学校が参加しました。大学教員による学校教員研修(Cooperative learning、会議等でのコミュニケーション)のほか、保護者の学校会議への参加を促すために会議後に簡単な食べ物を用意したり、行事への参加を促すために親子共通の宿題を出して当日に報告させたり(バター、ケーキ、生ジュース、自由レシピづくり)、学校での親子共同作業(Tシャツデザイン、絵本の多言語読み聞かせなど)、学校教員らによる親子対象の特別授業(楽器、化石、実験など)、地域の文化的施設への親子訪問(植物園、図書館など)、母親同士でのバック作りをしながらの実践イタリア語ワークショップを実施しました。

このEUプログラムは短期集中型でしたが、その後も、さまざまな工夫が継続されています。たとえば行事に向けた親子の共同作業と当日の発表という活動形態は、毎年3月におこなわれる国際母語デー・フェスティバルに引き継がれました。初年度は『はらぺこあおむし』を親子で母語に翻訳して挿絵を描く絵本制作がおこなわれ、フェスティバル当日には作成した絵本を持ち寄り、親子で多言語の読み聞かせがおこなわれました(記事のあとに写真)。今年度も学級毎に、旅をテーマとした語り合い、わらべ歌、遊びなど異なる課題が取り組まれています。

そのほかハロウィンとカーニバルにも、リサイクル素材を用いることを条件としたお面作りが親子共同でおこなわれています。こうした親子への配慮の一方で、教師たちも動きます。とくに年度初めの最初の登校日には校舎の玄関前で、同校の教師たちが寸劇を打ちます。今年度のテーマは「スポーツ」。毎年異なるテーマで、10分ほどの劇を用意します。最初はサプライズで始めたものが数年来の取り組みとなり、もはや親たちも待ち構えるようになりました。ある教師は「こうやって心を開いてもらうのよ」と話しています。保護者を交えた学級会議のあり方(座席を円型にする、終了後には一緒に食べ物を囲むなど)、日常の学級での教育方法の工夫(Cooperative learning)なども継続されています。

*バランツォーネ教授[Il Dottore/Balanzone]はルネサンス以降に北イタリアから広まったとされる風刺喜劇コンメディア・デッラルテの有名キャラクター。世界最古の大学ともされるボローニャ大学の「教授」を象徴する。衒学的、へりくつ、傲慢、無駄な教えと場にそぐわない助言、高尚な長話の前に必ず置かれる長たらしい言い訳、大げさな身振り、仰々しいわりに意味の無い議論...黒いマントと白の首飾り・カフスがトレードマーク。

なおイタリアの学校では、学級毎に異なる教育活動を進めることが珍しくありません。教師らになぜかと問えば、直ちに「憲法33条」にある「教授の自由」が言及されます。学年ごとに全学級で揃えなければならないという発想がないので、なにか新しいことを始めるときには大変に身軽なようです。まず始めてしまってから徐々に全体に広めたり、それが困難な場合は、できる学級だけでも続けたりしています(そういえば"meglio che niente!"=「(僅かでも)まったく無いよりはまし!」というイタリア語の定型表現もあります。)

児童教育学科・助教 髙橋 春菜
当該調査期間:2018年2月22日~3月12日
*科研費・研究活動スタート支援16H07147